主演のお二人に練習の合間を縫って頂きました。
―――では主演の七夜さんから。
(七夜)やりがいのある役を頂いて大変光栄に思います。舞踊も殺陣もほぼ全員の場面に入っているので、エンターテイメントとしても充分見応えのあるものに仕上がると思いますよ。
―――七夜さんといえば演芸出身ですからどちらもお手の物でしょう。殺陣といえば、今回の殺陣はお父様が作られるとお聞きしましたが…
(七夜)はい、父が殺陣指導に入っていますので僕個人としては凄くやりやすいです。子供の頃に習った癖がそのまま生かされてますから、何を思ってそうしたのかとか、次に来る動きとかの予想も立てやすくてスルっと入ってくる感じですね。逆に、息子だからって好き放題無茶振りが来るのも大変ですけど、楽しいです。
―――無茶というとどのくらいの。
(七夜)ちょっとそこで側転して、くらいの軽さで ちょっとここのシーンで天井走って、とか言い出しますからね。
―――ええっ!?
(七夜)いや、言います言います。足の低い机のセットの下で10秒で衣装替えて出て来いとか。おまけに本人がやればできると言わんばかりに実践してみせますからね、あーこれはやるっきゃないのかー、みたいな(笑)
流石に腕3本目生やして来いとか言われた時は真剣に悩みましたけど、父なりの冗談だったらしいです。普段の指示がああも無茶な上に真顔でしたからね、真意が汲み取れず難儀しました。
―――それではもう一つ質問を。今回の脚本の下敷きになっている翻案元『エクウス』といえば主役の少年役が全裸になることで有名な舞台ですが、今回は。
(七夜)あ、その演出は無いらしいです。あれが苦悩と開放と錯乱の表現として成立してたのは、ストレートプレイの小劇場だからだと思うんですよね。だだっ広い大ホールでやっても客席から遠くて同じ衝撃は見込めないでしょうし。あと時代物なんで、裸体にそれほどタブーの意味が無いだろうとか、衣装が脱ぎにくいだとかデメリットの方がおそらく大きいので。
―――全裸演出を入れて、芝居のロゴ入りのオペラグラスを作って販売すればメリットの方が上回るのでは?
(シオン)いいですねそれ早速ズェピアに提案してきます!!!ロット5000の場合と10000の場合の売上差を予測算出!相見積もりを取ればおそらく更に原価は下がりますね!!パンフレットにも該当場面を載せれば更に売上が見込めるのでゲネプロ激写袋とじ版と2種作りましょうか!!それを見込んだ上で100万ずつを衣装と広報と小道具に上乗せしましょう音響の質も上げますよズェピア―――!!
(七夜)あっちょっと待てシオン!!思い止まって経理担当さーーん!!!!
―――気を取り直してもう一人の影の主役、軋間さんにも。
(軋間)いえ、主役というか……装置というか(一同爆笑)
(七夜)出たぞ喋らない役!前半は彼、動きも無いので本当に置物状態なんです。見てるだけ。
(軋間)そう、見てるだけ。最初は遠くで見ているだけの存在なんです。しかも主役の心の中の畏敬とか歪みとか罪の意識とかなので、他の人間には見えない。触れない会話も出来ない認識されないという演技が皆さん美味いので、本当に透明な存在になった気分です。
目の前で皆いろいろやってるのに参加できないので、役者としてはちょっと寂しいんですよね。置物になった気持ち。荘厳に振舞ってる面の下で、皆楽しそうだな~とか あっ今四季君がセリフ噛んだの誤魔化した、とか思ってる。(笑)
(七夜)ほんと仕事しろと(笑)
(軋間)ただ、この脚本だと翻案元の『馬』と違って、段々見てるだけだった『鬼』が寄って来るんです。そのうち少年と同じ動きをするようになる。更には彼よりも先に動くようになる。
これは馬ではなく人型の妖怪に変わった一番の部分ですかね。人間の形をしているからこそ、プラスのシーンでは妙な親しみも湧き易いし、逆にマイナスになると恐怖も増す。
―――無言で表情が分からない、というのがまた怖いですね。
(七夜)サスペンスとかの要素も微妙に入ってると思いますよ。先を動く『鬼』について同じように行動し始めると、いつの間にかイクサに出ている。イクサに勝っている。ムラの英雄になっている。クニに士官している。あれ、自分って何なんだろうって思うじゃないですか。しまいには、自分にしか見えない妄執だったはずの鬼の暴走が止められなくなる。
と、この辺になって『鬼』に振り回されるようになると、「あ、軋間のやつちゃんとギャラの分仕事してるな」って思います。(一同爆笑)
(軋間)後半で一気に巻き返さないといけないんで気合入りますね。
(七夜)まあ冗談はおいといて、多分この『鬼』の役って、恐怖と一緒に神聖さも出さなきゃいけないんですよね。じゃないとただのホラーで終わっちゃいますから。能との組み合わせもあって、軋間さんには来てもらって本当に良かったと思ってます。
(軋間)実は、最初お話を頂いた時にお断りしようと思ってたんですよ。現代劇風に感情を声や表情にのせるのは自分の得手ではないので。そしたら、ズェピアさんが「あ、喋らなくていいです」って。
(七夜)客演の依頼しておいて「喋らなくていい」って考えてみたら随分な言い草だよね。(笑)
(軋間)「表情も変えなくていいです」って、本当何の依頼かと(笑)でも話をよくよく聞いてみたら、なるほどこれは趣旨に合っているし自分が参加する意味もあるなと。「ほぼ普段のままで結構です、むしろ是非そのままで」と言われて、ようやく決心が固まった感じですかね。
そうそう、その表情を隠す能面自体も、1種類のようで実は綺麗な白と汚れた白、黒、目の色だけ違うものと各種用意して頂いています。場面によっての使い分けも面白いので、そこに着目して頂けると違う畑から客演に来た甲斐があるかな、と思いますね。
お二人の稽古場の注目株の役者は
―――では少し違った質問をしてみます。お互い以外で、気になる方は。
(軋間)有彦君、面白いですね。
―――意外なところ来ましたね。
(軋間)自分、ずっと面を付けてるじゃないですか。あれ相当視界が狭いんですよ。目が片方しか効かないのもあって困ってたんです。能楽では照明の明るさも方向も色もそんなに変わりませんが、現代演劇の速度で変えられると暗さや明るさになかなか目が慣れなかったりして。フォロピン、動くぶっちがい、めくり、とライティングの角度も変わりますからね、あまり目に優しくないんです。
そしたら「ちょっと改造してイイっすか」って、目の部分全部くり抜いてメッシュに彩色してくれたんです。遠目からだと分からないでしょうけど、実際使ってみると物凄く視界が広いんですよ。もう能面全部この仕様に変えてやろうかっていうくらい。
―――凄いですね。
(七夜)役者が本職なのか小道具本職なのか分かんないですからね、アイツ。実際またいい仕事するんです。
(軋間)鞄の中からラッカー各種ノミ木槌に半田ゴテ、とごろごろ出して来て吃驚しましたよ。あと飯盒とか。レトルトカレーとか。キャンプ用具一式背負って稽古場に来る役者ってそうそういませんよね。聞いてみたら、期間限定で川べりで寝泊まりしてるそうです。趣味で。
(七夜)で、さっきの面みたいにさり気ない時はいい仕事するんですけど、本人が「イイもんできたー!!」って持ってくる物はどうしようもなくちゃらんぽらんだったりする。(笑)でかいきのこの着ぐるみ押し付けられた衣装担当の弓塚さんが困ってましたね、あれをどうしろと。
(軋間)あれは自分の衣装案だったらしいぞ。
(七夜)マジで!?
(軋間)お前用にヤカンヅル・改マークⅡもあったとか、なかったとか。
(七夜)マジで!!??っていうか改とマークⅡ被ってるだろ、意味!!
(軋間)最近有彦くんのアートの法則が分かって来ました。長々と命名されてる作品は、要注意。横文字が入ってると更に危ない。
(七夜)アート(笑)
(七夜)あと意外だったのは四季と有彦が結構うまくやってるみたいなのが。四季のヤツは昔から知ってるんですけど、あの人を見下したようなヤツが面倒見てんですよね、有彦のこと。で、四季が苦手な対人関係とかを有彦が上手くフォローしてて。稽古場の雰囲気がトゲトゲしないんで凄く良いです。
(軋間)随分と持ち上げるな。
(七夜)…と、思うだろ?それをぶち壊すくらい有彦にはマイナスも多いんですよ…いっぺんインタビューの時にあいつ「大変ですね」って言われたら「あ、俺2場で死ぬんで結構楽チンっす!」ってポロっととんでもないネタバレしやがったんですよ!
―――ええっ!?そのときの公演はどうなったんですか!?
(七夜)それがですね、本人がその時点で台本渡されたばかりで前半までしか読んで知らなかったんですけど、実は生きてて最終幕で出て来るんです。世間的にフェイントはかけるわ身内の肝は冷やすわ恐ろしいですよ…以来、アイツにはこういうインタビュー系の仕事は一切回さないようになってます。
(軋間)ああ、こういう場が好きそうなのに来ていないのはそういう理由が…
(七夜)多分今頃隣の部屋で四季がゲームの相手して気を引いてくれてる。…あのう段々これ、役者として注目してるっていうよりはハラハラして目が離せないって話になってきてませんか。
―――いえいえ、和気藹々と練習に励まれているようで安心しました。仕上がりを楽しみにしています。
大衆演芸二本柱が御揃いのところへ
―――先月結婚を機に現役引退を発表されました式さんですが、ラストステージにこれを選んだ理由があれば教えてください。
(式)それはもう、アクション監督が黄理さんだと伺ったので。ずっと気になってたんです、出身が同じ演芸の大先輩なので。
(黄理)それはどうも、光栄です。
―――演芸の大家、七夜・両儀・巫条、浅神の4家中2家が新劇の舞台で揃うというのも意外ですね。
(式)いやそもそも黄理さんがここにいるのがおかしいんですよ。息子が家を継がずに新劇に鞍替えしたってだけで普通は勘当モノでしょう。それが「息子がそっちを選んだのならそれだけの価値があるんだろう」って現当主までくっついて新劇の世界に来ちゃうって前代未聞じゃないですか。最初会見あった時に頭おかしいんじゃないかと思いましたから。
(黄理)家督は兄の方に譲ったんで、とりあえずお家断絶はなくなりましたね。多分妹と二人三脚で上手くやっていくでしょう。
(式)層が厚いなー七夜家は。まあね、自分が指針を決められたのって正直あの会見を見たおかげなんですよ。おかげさまで「あ、家にそこまで献身しなくってもいいんだよなー」って思って今回の結婚に踏み切れたわけです。そういう意味もあって黄理さんは本当、尊敬する大先輩ですね。
―――ご主人は芸能人ではない一般の方だとか。
(式)ええ、反対の声が多いだろうと思ったので、家に報告する前にTVで報道してやりました。
(黄理)現当主は居なくなっても残りが何とかするし大丈夫大丈夫。当主一人居なくなったくらいで途絶える程度の技なら滅んで良い。
(式)とかなんとか言いながら、この人着々と七夜君に仕込んでますからね。練習で一緒になって吃驚しましたもん。あの無茶振りな殺陣は、七夜家の基本が完璧に出来てないと不可能な立ち回りばっかりですよ。
(黄理)仕込むというよりは…生半なウチの技を使ってるのが見るに耐えないというか。精度の低い餓鬼が目の前に居ると徹底的にしごきたくなるというか。
―――演芸の行く先も新劇の行く先も安泰そうですね。本日はお忙しいところありがとうございました。