第1話

Ill Met by Moonlight
(月夜にとんだ鉢合わせ)

早々に動き始めた他陣営と違い、しばらく立ち尽くすシェイクスピアと月影。最弱、戦う手段も無い、おまけにマスターは心臓が弱く走ることもままならない。無い無い尽くしの二人だが、「願いを一つ叶える」という条件に参戦の決心が固まった。
命を懸けても再演したい舞台がある。そう吐露した老女を、シェイクスピアはこれ以上無い恭しさでマスターと呼んだ。だが、世紀の戯曲家・シェイクスピアその人にマスターと呼ばれて恐縮しない役者は居ない。

「私の事は、どうぞこうお呼び下さい。―――アクトレス、と。」

マスターとサーヴァントならぬ女優と劇作家、あまりに異端な二人の聖杯戦争が幕を開ける。
第2話~第3話の公開は終了いたしました

第4話

All the world's a stage
(この世は舞台)

シェイクスピアの宝具、『敵味方問わず対象者を自作劇の登場人物に仕立て上げる』能力と【女優】の相性は抜群だった。心を折る仕様のファースト・フォリオではなく、自陣の強化を主目的として使う第二宝具オクターヴォを要に、月影があらゆる騎士・剣士を完璧に演じることで何とか降りかかる厄災を跳ね除けていく。

一方アサシン、セイバー組は”主催者”の宣言に乗らず、その目的を探っていた。不審なポイントに正面から斬りかかるセイバー組と、それを囮に情報を集めるアサシン組。とある巨大コンピューター施設であるものを発見することから、共闘陣営も大きく動き出していく。

第5話

The Tempest
(あらし)

連戦の無理が祟るかと危惧された月影だったが、事も無げに歩き出す。宝具の効果も切れているのに何故、と訝しむシェイクスピアだったが 彼女は詩でも吟ずるよう軽やかに答えた。

「何ということもありませんよ、ミスター。私にとって女優は生き様、舞台を降りてもそれは変わりません。ならば貴方のかけた効果は、私が女優である限り持続するのも道理でしょう」と。

事ここに至ってシェイクスピアはこれ以上無く『当たり』のマスターを引いたと確信した。同時に、このマスターならば自分の願いを叶えられるかもしれないとも―――。

コンピューター施設までの血路を開くライダー陣営、それに続くセイバー、アサシン。唯一拠点を守る為に残ったガンナー達に危機が訪れるが…?
第6話~第11話の公開は終了いたしました

第12話

華炎

裏切る必要が無い主と共に戦う喜びを得た呂布。
愚直なまでに正直で嘘を言わないマスターを得た清姫。

「ふふ、ますたあったらキャスカ、キャスカって。気のある素振りをした方がサーヴァントを楽に扱えるのに、本当に、嘘の言えない人」

切なそうに、どこか嬉しそうに清姫は笑う。
試練の踏破を通し、各々の陣営は薄々自分のマスター・サーヴァントを相棒と認めつつあった。

そんな中、キャスター陣営が一足先にルーラーの領域に踏み込む。
“主催者”ルーラーの目的は人の心のサンプリングだった。

ここに居るマスターとサーヴァントはそれぞれの世界からサイバー世界に精神だけ再構築されたコピー。「一つ願いを叶える」とは、「願いを産む大元の苦しみを記憶から消去して、現実世界の貴方に上書きする」というもの。 「上書きを受け入れれば、苦難を共に乗り越えたサーヴァント・マスターの記憶も消去し、元の世界で元のように続きの人生を送れる」「拒否した場合はコピーの貴方はこのままデリートするしかない」とも。

その提案にどう答えるか、大勢の人間の答えが知りたいとルーラーは言う。

第13話

All's Well That Ends Well
(終わりよければ全てよし )

一呼吸も迷わずに、二人は申し出を断った。それは生きる目的の放棄と同じだと。
どこか そう答えると分かっていた、という風情でルーラーはデリートまでの時間を告げ消え去った。

消滅までの時間を、二人は互いの願いを叶える為に使う。ほんのささやかで、現実世界には持ち越せない願い。ここでしか叶えられない方法での願いの昇華。
月影は、宝具の効果により自由になった体で【紅天女】を一人演じる。

「百万人に見て貰う事が目的でしたが、演劇界の王に貰う拍手はまた格別ですね。尾崎一蓮、貴方の脚本がシェイクスピアに褒められましたよ―――」

シェイクスピアはというと、秘密の願いをそっと打ち明けた。劇俳優としてはついぞ芽の出なかった自分に稽古をつけて欲しいのだと。作家として下手に高名になってしまったせいで、厳しく演技を教えてくれる人間に出会えなかった。

「頼めますか?アクトレス、いえ“月影先生”――」

微笑んで快諾した彼女は想像よりも苛烈だった為、かくてシェイクスピアは消滅の寸前まで散々に叱られ、修正され、こまごまとダメ出しを食らいながら台詞を繰り返す事となる。二人は笑いながら、満足そうに消えていった。


――次の組を待ちながら、ルーラーは演算を続ける。
「博士、博士、やっぱり分かりません。どうしてあなたは俺の記憶を消したのですか」と呟きながら。