探偵事務所【万里眼】
01
特異体質特化型
――今回は取材を受けて下さってありがとうございます。
エントリーの必須スキルにかなり特殊な能力を要求されていたので、詳細をお伺いしたく思います。こちら、えー、『千里眼』『未来視』『過去視』いずれか、またはそれに該当するようなスキルとありますが…?
そうだとも。うちの探偵事務所は特殊な眼を持った人材が集まったところでね、在籍者は当たり前として出資者も、果てはアルバイト事務員の高校生ですら千里眼やちょっとした未来視ができるメンバーが揃っているよ。
ここまでの人材を揃えている事務所は、他に見たことが無いね。
――例えば、一見普通に見えるあちらのスタッフさんも…?
勿論。あそこで気さくに手を振っている黒髪の彼は、千里眼の上に読心まで可能だ。心まで読める、というのは珍しいからとても有難いね。もう一人は、過去と未来を見通せるグランドクラスの眼なんだけど…いかんせん、見たものを見たまま処理してしまうからね、『何故、人はどう感じて動いた為にその見た光景になったか』を想像することに不慣れだ。最近ようやく周囲のサポートあって、人の内面をも知ろうと手探りし始めた感じかな。
ここは同じような特殊スキルを持ちのコミュニティだからね、悩みやつまずきを共有して消化しやすいから、抱え込んだりせずにすむ。特異な能力で疎外感を感じている人が居たら、是非うちの事務所に来て欲しいね。
――出資者までも能力者、というのも凄いですね。
ああ。彼は未来や並行世界までも視れるという凄い能力者だよ。ただ、未来や並行世界を見れてもあまり過去に起こった犯罪には関係が薄かったりするからね。探偵事務所の業務には宝の持ち腐れ、という案件も多い。何より、クライアントの話を興味を持って聞くということが少々難しいお方だ。今は一線から引いて、黄金で我々の活動を支えてくれるポジションに収まっているね。
――あれっ?そうなってくると、募集要項にある必須スキルに『未来視』は必要ないものでは…?
一概にはそうと言えないのが難しいところだ。例えば我が事務所の誇る優秀な事務員の一人は未来視持ちだが、これは相対した人物の過去を見ることで、未来を予測演算するタイプのものだ。完全な「未来を視てくる目」ではないしその未来も不確定、だがこれは充分に探偵向きのスキルと言えるだろう?
何よりも彼女の眼で見たものは、予測演算から来るもの故の未来の不確定さが素晴らしいね。『視た』ものは絶望的な殺害現場でも、それを未然に防げる、そういう未来に変えられる。これが完璧な未来視だとね、被害者の死は確定済みだからもう手の打ちようがない。
02
あくまで探偵事務所として
――確かに。…というか、そのような特殊な眼があれば警察は必要なくなってしまいますね…!?殺害現場自体を見ることが出来るとなると、犯人なんて一発で指名できますよね。
現代の司法では、なかなかそうはいかないものさ。我々がどれだけ『その瞬間の現場』を見ようとも、物証と動機が無ければそれはただの妄言だからね。何しろ普通の、千里眼が無い人々にはそれが真実なのかうちの社員が嘘をついているのかが分からないわけだから。特殊な眼は『視る』だけ、それをどう役立てるのかはその後次第になってくる。
勿論、捜査の大幅短縮は可能だよ。正解はあそこだよと教えることができるからね、迷い道に入りこむことはない。
――到達点を示すのが千里眼、一般人に広く納得させるまでの道のりを作るのはやはり別のスキル、ということですね。
千里を見通す眼よりも必要なのは探求する心さ。
一人の人間を深く観察して、心の内を読み、行動を想像し、破綻なく万人を納得させるだけの道理の通った行動を導き出す。推理という行為はね、千里を超える万里を見通すものなんだ。それが無ければここの事務所は「探偵」ではなく「覗き見」を看板に掲げるべきなのさ。
――成程それで!所長さんに千里眼スキルが無いのを疑問に思っていたんですが…!
いかにも。要(かなめ)は私だよ、ここが『探偵事務所』である為のね。
――心を読めるスタッフさんもいるという話でしたが、やはりそれに関しても他人にそれを納得させるだけの説明を外部にしなければなりませんものね…!「分かる」だけでは成り立たない仕事なんですね。
とはいえ、現象だけを視れるよりも、心も読めるとなる更に仕事の精度がハネ上がるのも事実だ。
そちらに関しても人員を強化しようとしたことがあってね。補充したまでは良かったんだけれど――
――どうなったんでしょうか?
眼前の人物の真理・欲望を見抜くまでは素晴らしい千里眼だったんだがね…他人の内面を暴きたて、自分が興奮する方向にそれを使ってしまい、クライアントとの関係が滅茶苦茶になってしまった。辞めさせようとするもクライアント本人がそれを拒むし、彼女の奪い合いで打ち合わせに使っていたカフェで乱闘が起きるし…全く酷い目にあったよ。果ては最終的には保護者と称する少年にお持ち帰り頂いたが、やはり能力は能力そのものよりもどう使うかが重要だと思い知らされたね。
03
門戸をより広く
――色々な裏のお話もありがとうございます、『万里眼』が素晴らしい探偵事務所であることが良く分かりました。
そして、今回その千里眼スキル特化事務所に新たな募集枠が出来たとお伺いしたのですが…?
先程言った通り、うちの事務所は視る方向だけに少しばかり傾いている気がする。そこで、物証を集める・探すといった能力を持っている人物を入れてそこを補いたいと思っている。
――稀有な能力ですねそれも…!
そちらは実は、うちの事務担当の一人がいたく熱心でね。直接嘆願したいのだそうだが、少しばかり彼女の為に紙面を割いて貰っても良いだろうか?
――はい、喜んで。ではアピールをどうぞ!
はい!あ、あの、万里眼はとてもいい事務所です!物探しや人探しが得意な方、何かを調べるのが得意な方、貴方のその能力を120%発揮できます!探し当てたものから先の推理は、他の方がサポートしてくれるから鈍感な方でも大丈夫です!というか、鈍感で良いんです…!!そのままの性格でいいんです、そういうところが良いんです!
どうかどうか、どうかうちに来てください!!一緒にお仕事したいです!服装自由、頭のてっぺんからつま先まで真っ黒でも、普通の会社みたいに文句も言われません!黒髪で眼鏡の貴方の応募をずっとずっと待ってます…!!!
――お、おお…?何だか特定の方向を感じるものでしたが、熱いアピールをありがとうございました!パネルのサポートもちゃっかりしていて可愛いですね。
彼女達は年が近いので仲が良いんだ。「断然応援しちゃいますよ!年上、黒髪で眼鏡、うん凄く良い趣味だと思います共感します!」とか言いながら、昨日仕事の後でパネル作りに勤しんでいたよ。
――求められるスキルが高い分、仲間意識も強くアットホームで素敵な職場なのですね。 本日はありがとうございました!
当企業へのエントリーへの意気込みや、今後の参考にご感想等いただけると幸いです