害虫駆除【駆除屋七夜】

01

背負った看板に曇りなし

――本日はお時間ありがとうございます。
『駆除屋(ころしや)七夜』といえば、繁華街の本社シャッターに巨大な「暗殺者(アサシン)参上」の筆文字を入れたことで一躍話題になられましたね!今では新しい待ち合わせスポットになり、街の景観にも馴染んでいるとか。ユーモアたっぷりのシャッターですが、あちらは棟梁の発案なんですか?

あー、俺にそんな笑いの感性は無えよ。ありゃあウチの若いのが「インパクトが欲しいです」って持ってきたんで許可しただけだ。昔は精度の高い仕事さえしてればいいと思ってたんだがな、今は競合する業者も多いからそういう仕事取るとこもキチっとやれって意見が出たからやらせてみた。

――しかし、それを社長直々に許可されるという事自体が凄いですよ!怖い会社と間違われそうだったり、近隣住民からの反発等が予想されたりするでしょうから、普通は二の足を踏むところではないでしょうか。

いや、特には。
何か問題あったら俺が責任取れば良いだけだしなあ。俺が居なくてもウチは充分機能するだろうし、最悪潰れてもどこでもやってけるように全員腕は仕込んだしな。そこらの心配はやる前からしてもしょうがねえだろうよ。

――やはり、スズメバチなど命の危険もある害虫の処理も得意とする会社、腹のくくり方が一味違うと感じました。…ちなみに件の看板は、CM効果以外に何か変化などはありましたか?

看板前で恰好つけて写真撮ってく若いのが増えたな。見せもんじゃねえし最初はあまりいい気分じゃなかったんだが… 息子の友達って奴がウチの看板前で楽しそうにしてたの見た時は、ああやって良かったなと思ったな。

02

プロフェッショナル以外要らない

――さて、今回、特に変わったコンセプトを掲げていらっしゃる会社ということでお声がけさせて頂きました。『プロフェッショナル以外要らない』というのは結構過激に聞こえる募集要項ですが、先程のインタビュー内で、それは社員をしっかり育てているからこその発言なのだなと感じましたが…?

過激か?普通そんなもんだと思うが。完璧にこなせなきゃ仕事をしたとは言えんだろ。 責任もって一流まで育てた人員を、責任もって現場に送り込む。それが棟梁の仕事だろう。俺は当たり前の仕事を当たり前にやっているだけだ。

――なるほど、しっかり仕事を叩き込むと。採用後の年収一覧を拝見させて頂きましたが、採用3年目辺りから跳ね上がっているのは完全実力性の表れなのですね。

そうだな。仕事ができるやつにはキッチリ支払う。これも当然のことだ。 他に引き抜かれたくないくらいに腕のあるやつには、相応の報酬で留まってもらう。うちで一番の腕利きは他所から引き抜いた奴だが、多分俺以上に貰ってるんじゃねえかな。

――会社のトップよりも貰っている社員がいるのは驚きですね!?

現場に出るだけの俺と違って、アイツは下の奴に語ったり何だりで後進の教育もやってくれてるからなあ。 自分の研鑽にしか興味がない俺みたいな人間よりも、組織を長く回していくにはああいうほうが必要だろう。

03

一芸を極めろ

――さて、ではそのお仕事のレベルに関してです。プロフェッショナル、と言葉でいうのは簡単ですが、その高みに上り詰めるまでは難しいのではないでしょうか?

どうだろうかな、本人に向いてねえことを強要するなら難しいのかもしれんが…うちではとにかく、本人に向いてると思われることを突き詰めることから始めさせる。直接的にはうちの業務に関わり無さそうな事でもだ。

――例えば、どんな…?

そうだな、去年採用したのは科学を専攻してた毒物使いなんだが…現場は向いて無さそうだったんで、そのまま好きなことやらせてたらいつの間にか特許取ってたな。人体には無害で特定の種類の虫にだけ効く毒とかそういうのを開発して。

――現場に出せないなら事務で使おう、とはならなかったのですが?

事務向きならやらせてたかもしれねえが、折角他に一芸持ってるんだからそれを磨く方がいいだろ。
というかその質問、事務のスペシャリストに失礼だから言わん方が良いんじゃねえかな。

――し、失礼しました!そうですよね…!

他にも、まるで自分の手足みたいに人を使うのが上手い 現場の指揮を執るのが得意なやつとか、高所や軒下の奥深くどんなところでも気付いて的確に一発で処理できる奴とかもいる。当人が元々持ってるもんを伸ばすだけだから、あとは研鑽を積むだけだ。

一見無駄そうでも、仕事ってのはどっかで繋がってるもんだからな。意外なとこで芽を出すもんだし、得意なことを突き詰めさせる方向でうちでは教育しているな。

――なるほど、一見門戸の狭そうなコンセプトは、どんな新人さんでもプロフェッショナルに育て上げられるという自信の裏打ちなのですね。

人間何がしかの芸は一つくらい元々持ってるもんだ。うちはその本人の素質に乗っかってるだけだから、自信と言われるとあまりピンと来ないが…

――ちなみに、最後の質問なのですが…棟梁の『一芸』は何なのかお伺いしても良いでしょうか?

俺はただのお飾りだよ。新しいことも人を育てることも向いてねえからな。
やってる事といえば、現場での仕事を誰よりも素早く無駄なく正確にこなすこと。その研鑽を日々積むこと。その姿を下に見せること。そんだけだ。

――…社員全員の『目標』ということですね。それは何よりも大事な、毎日目にするべき”飾り”だと思います。流石の覚悟ですね!色々とお話が伺えて、私も勉強できました。
本日は本当にありがとうございました!

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